バナナの実 【近未来 ハード SF】
どうして? どうして、リンは私のこと嫌いなの?」
「多分、僕のせいだと思う」
今にも弾けそうな大きなシャボン玉が、朱を基調としたレストランの中で世界を二分していた。
「リンのこと、守れると思う?」
「何?」
彼女の言っている意味が理解できず目が点になっていると、マニーは続けた。
「リンの顔に気付けな!」とテーブルにあったフォークを右手に握る。
そして、人が変わったように猛禽類(もうきんるい)の鋭い目つきで、それを彼女自身の頬に近づけ切りつける仕草を見せると、静かにレストランを去っていった。
辻は、その迫力に背筋が凍りつくのを感じ、こいつは本気だと思う。
「ハァー、・・・」
ついた溜息(ためいき)が鋭角に凍り付き、いつ自分を襲うのか恐れた辻はどうしたら良いか分からず、その場から真治に相談の電話を入れる。
「―― どうしたらいいでしょう、真治さん?」
辻から簡単な説明を受けた真治は、とりあえず、そっとしていた方がいいというアドバイスを残し、今夜、待ち合わせることを約束した。
「いやー、どうも、どうも」
辻がクラブ中庭の円卓で待っていると、いつもの明るい声が後ろからかかり、真治に軽く肩を叩かれる。
「こんばんは、相談できる人がいて助かりました」
「それからどうなった?」
「これと言って、話に進展は無いんですが、さっきダンスフロアーで会ったニアンには、事情を話して『気付けて』と声をかけました」