バナナの実 【近未来 ハード SF】
「なんで、そうなっちゃったの?」
「すべては、僕のマニーに対する言動に責任があったと思うんです。気付かないうちに、三角関係に陥っていたようで。
『もう君とは会えない』って伝えたら、『彼女の顔を傷つけて、一生後悔させてやる』って殺意の目で言われたんです。
まさか、あんないい子がそんなことを口にするとは、思いませんでした」
「それは、女の嫉妬だねー」
辻は、いろいろ対策を練ったが、真治の「刺激しない方がいいから、それはやめた方がいい」との助言に納得し、様子を見ることにした。
幸いそれから、マニーの姿を見かけることはなかった。
それからニアンとの関係はすぐに回復し、彼女の家に呼ばれ遊びに行くことも度々あった。
長平屋の一室を月20ドルで間借り、家にいる彼女は、クラブとは雰囲気がだいぶ違っていた。
カンボジアスタイルの裾(すそ)の長い花柄の腰巻に、ピンク縞(じま)の半袖シャツ姿。
服は、すでに色褪(いろあ)せ、くたびれていたが清潔感はあった。
10畳一間の広さにトイレ兼(けん)風呂場は壁で仕切られ、天井はつながっている。
そして、玄関、台所、居間、寝室の機能がひとつになった部屋があった。
家裁道具はテレビと食器に衣類くらいで、扇風機が勢いよく回っていたが、トタン屋根の天井が天然ヒーターのように日中の熱を輻射(ふくしゃ)し、室内の気温を上げる。
衣類スタンドには、この部屋に似合わないお洒落(しゃれ)な服がたくさんあり、それが田舎の家とは少し違っていた。
部屋はきれいに整頓され、掃除も行き届きニアンの性格が伺える。