バナナの実 【近未来 ハード SF】
彼は、俚(さと)び歌のような生活を知っていたので、特に驚くこともない。
なにも着飾らないありのままの生活を見せてくれたことが、何より嬉しかった。
ニアンは、辻が来ても笑顔の回数が増えるわけでも、愛想が良くなるわけでもない。
また、辻が彼女の部屋で特別何かをするわけでもなかった。
ある日、辻は、彼女の家で昼寝をした後、おやつがてら冷え切ってボソボソのご飯に、昼の残った魚をご馳走になる。
意外にも、彼女の家で一緒に食べるご飯がこんなに美味しいものだとは、思わなかった。
こんな貧素でも、物質的ではない充足感がそこには確かにあった。
辻のジッと見つめる視線に気付いたニアンは、「ナニよ」と言って微笑むのだった。
夕方に散歩し太陽が完全に地平静にある雲に隠れると、「ごはん!」と陽気な声がかかる。
辻に大食い娘と思われ苦笑いするニアンをバイクの後ろに乗せ、二人は、レストランへ。
彼女の案内で到着すると、結構人が入り繁盛しているカンボジアスタイルのBBQハウスだった。
注文を彼女に任せると、かぼちゃ、たまねぎ、にんじんなどの薄切り野菜の盛り合わせが3皿、味付け牛肉ステーキ4皿、車エビ2皿とテーブルには置ききれないほどの料理がきた。
だれも気にかける様子のない二人の姿は、周りの笑顔咲く家族団欒のテーブルや会社の同僚と盛り上がる景色に、まるで別の種類のパズルをハメ込んだように異彩を醸(かも)し出していた。
辻とニアンは思い思いに、肉や野菜を炭火の七輪で焼き始める。
陽が落ちてまもない蒸し暑さと炭火の遠火が重なるが、ビールのアルコールがそれを癒(いや)した。