バナナの実 【近未来 ハード SF】
第3章 未来の新聞記事
■ 第3章 未来の新聞記事 ■
2007年9月5日。
帰国して間もない辻は、読売新聞の朝刊記事に驚愕した。
そこには、『自作小説を14の漫画に秋元康さんメディア横断計画』と見出しがあった。
新聞記事によれば、一つの小説作品を14社で原作を別々に解釈し、それぞれのコミック誌で主人公を立てる。
そして、それぞれの主人公の視点でオリジナル小説のシナリオを展開。
したがって、同じ小説でもコミック誌によって主人公が異なるので、あたかも14通りのストーリーを楽しむことができ、あなたにぴったりの作品を見つけることができるというものであった。
辻の小説構想が、小説とマンガの世界ですでに実行されていたのだった。
書きかけの彼の原稿には、小説を原作とした視点の違う映画が韓国、アメリカ、インドで制作されることが描かれていた。
秋元氏の”小説から各漫画”と、辻の”小説から各映画”とでは、厳密にまったく同じ発想というわけではない。
しかし、辻は、自分の企画構想が次第に他人によって成し遂げられ、いつか自分ではない他人によって実行される日が近いことをひしひしと感じ焦燥感(しょうそうかん)に襲われた。
海外放浪という非日常から帰国し、そんな不安を抱きつつ秋も深まり紅葉シーズンを迎えた頃、ようやく “パーフェクト アメリカンドリーム ~未完の小説とバナナの実~”という長編SF小説を書き上げた。
それは、小説の基礎も知らないズブ素人によって、ただ勢い任せに描かれたものが、かろうじて細い針金で留められただけの紙束だった。