バナナの実 【近未来 ハード SF】
第21章 民衆の逆襲
■ 第21章 民衆の逆襲 ■
ケータイ小説をサイトに発表して、半年が過ぎる。
辻のブログ等で議論された話題は多岐に及んだ。
小説の書き方といった初歩的なことから、シナリオの問題や改良点、バナナの実が成る条件やこの小説の持つ本質とその意義など、予想をはるかに超えるやり取りがウェブ上で交わされていた。
それらの議論は、自然とできたウェブにアクセスする常連の人々によって整理され、お互いがリンクすることで、現在の膨大な書き込みが可視化されるよう進化したシステムが構築される。
可視化とは、目には捉(と)えられない関係性を図や表などを用いて、体感的に分かりやすく形にすることを指す。
このシステムもまた、議論に参加する読者たちの知恵の結晶であった。
この頃、ケータイ小説は、1929740pv、総合週間ランキング3位に。
それを受け、当初、”総合週間ランキングかジャンル別ランキングにおいて、3位以内ランクインで書籍化”と明記されていた通り、辻は、出版化を決意する。
ケータイ小説と書籍出版される内容では、空白の章が埋められたりカジノの描写が削られたりと、約6割に渡って相違があった。
そのうち4割は、この半年間にわたって読者とウェブ上で議論された事柄。
重要であると思われるアドバイスや感想の内容について、シナリオの幹はそのままに空白だった章に加筆修正された。
そして、実際、こうしてできあがった小説を眺めて見ると、それは辻だけのアイディアで書かれた小説ではなく、ウェブを通して出会った読者との共同作業にて完成された小説になっていたのだ。
なぜなら、ただ単に読者の声を無秩序に加えたのではなく、出版されるまでの道のりに沿ったストーリーが立てられ、あたかも人間ドラマを見ているような風合いに仕上げられていたからであった。