バナナの実 【近未来 ハード SF】

書店では一切(いっさい)見かけない辻の小説は、ネット上に存在する数十人のアマゾンアフィリエイト利用者や読者の応援と口コミにより、その存在価値を高めていく。


この事は同時に、小説に関わろうとした読者の発言の価値をも高めていくことを意味していたが、形にならないものに成果が見えないように、ほとんどの人々は、そのことに無自覚でいたようだ。


まさに、小説シナリオに揃えた条件と共に、地球内部に仕込まれた巨大な歯車が徐々に動き出そうとしていた。


実際、何が販売部数を促進しているのかは辻にも良く分からなかったが、数ヵ月で10万部が売れる異例のヒット作になる。


その数字は、辻のブログをはじめ、多くのブログサイトでほぼリアルタイムで表示されていた。


また、議論された多くの情報は、オープンソースとしてすべてウェブ上に公開されていた。


これらのことが、小説世界と現実世界をつなぐ役割と共に、小説全体の可視化に大きく貢献していたようにも見えた。


つまり、ケータイ小説からでも出版された小説からでも、辻のブログやそれに関連するサイトにアクセスさえすれば、現在の進行状況を把握することができたのである。


何がきっかけとなったかは定かではなかったが、ネット上のいたるところで何か今までとは別の形の反響を呼び始めたのがこの頃からだった。


当初、辻の小説を注文する人は、彼のブログかケータイ小説を通してあらかじめ情報を知っていた人に限られると思われた。


しかし、友人のオススメがあったのかこの頃になると、一般の消費者も辻の小説に関心を持つようになり、それが小説販売をさらに加速させた。
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