バナナの実 【近未来 ハード SF】
次にバンカーとプレイヤーの両方に掛けていたのをどちらか片方にする。
そして、ステップ式に金額を上げる途中に踊り場的金額の設定を入れ、8回連続外してもマイナス6300バーツの損失になるよう工夫。
最後に、勝率・負け率7割以上の人を見つけ、その人に合わせて掛ける。
これはマニーとの実験の応用で、テーブルで掛けている人の勝率を観察し、顕著(けんちょ)なトレンドを示す人をパートナーに見立てる方法だった。
要するに、負け率7割の人は5回中3回は外すので、その人の逆張りをする。
当然、勝率7割の人には順張りするのである。
これらの戦略を複雑に絡ませて実践すると、日の目標を稼ぐのに時間はかかったが、一ヵ月後には、プラス3万バーツ(10万円)となり順調に利益を伸ばしていった。
辻がポイペットにいるこの一ヵ月間、マニーやニアンと、何度か電話で会話することがあった。
ニアンにマニーのことを話すと、彼女から電話があったことを、そして、マニーにニアンのことを話すと、彼女が近いうちにプノンペンに来ることを教えてくれた。
二人の話を聞いていると、少しずつ寄りを戻しているように感じ、辻は嬉しく思ったのだった。
この頃、夜になると辻は、再びガンジャを吸い始めた。
全裸事件以後、吸っていなかったので数ヵ月ぶりになる。
以前と違うところは、ガンジャをある距離をもって見ていること。
警察沙汰(ざた)まで起したおかげで大麻の何たるかが分かり、一歩引いた目線で冷静にそれと接する自分がいた。
キメてクラブへ行くこともあったが、大抵は映画を見るか、寝酒代わりに音楽を聞きながら寝てしまうことがほとんどだった。
カジノホテルの一室で暇を見つけては、コツコツ小説の原稿のようなものを書き溜(た)めていた辻は、その晩、ある映画を見て、何とも言えぬ不思議な気分になっていた。