バナナの実 【近未来 ハード SF】
その映画タイトルは、『MY DATE WITH CAMERON』。訳すと、「キャメロンと僕のデート」とでもなろうか。
キャメロンとは、ハリウッド人気女優のキャメロン・ディアスのことだ。
ストーリーは、幼い頃からずっとキャメロンのファンだったという、ある普通のアメリカ人男性が、45日以内にハリウッドスターである彼女と逢ってデートするという内容。
しかし、当然、普通の男が、面識もないハリウッドスターに会える訳がない。
したがって、知り合いに電話をかけまくって、キャメロンを紹介してくれそうな人を探したり、小さい頃からずっと彼女のファンであったエピソードを語ったりと、彼女に逢うための涙ぐましいくらいの努力を終始ドキュメント仕立てで映画は進行していく。
大きな転機は、彼がウェブ上に“MY DATE WITH CAMERON”というホームページサイトを立ち上げたことで、それに共感した人々が彼を応援する書き込みをしたのだ。
その輪が次第に大きくなり、書き込みを実際に目にした本人から事務所を通してデートの依頼があり、晴れて夢を実現させたという心温まる映画であった。
その映画の最後で、キャメロンと二人楽しそうに瀟洒(しょうしゃ)なレストランでデートしている風景を、彼の友人がホームビデオカメラを使って記録している映像が、そのままテレビモニターに映し出されている。
これはヤラセか? それとも、アイディアの勝利か?
いや、ヤラセで映画を作る意味がないことを理解すると、辻は、自分が書いていた小説のストーリーに似た点があるように思え、何かモヤモヤしたものを胸の奥に感じる。
もしインターネットの環境が整っていなければ、キャメロンとデートすることはできなかったのでは・・・。
人のことを言えた義理では無かったが、あの冴えない格好だったアメリカ人と同じようなことを考えた人が今までいったい何人いて、彼はその中の何番目だったのだろうか?
彼とそれまでの人との違いは何だったのか?
過去に考え出した他人の記憶に触れるか触れないかの距離で、意味の分からない不思議な点が、辻の脳裏に一つ刻まれたような気がしたのだった。