バナナの実 【近未来 ハード SF】

カジノに勝っている時は気分いいが、こんな生活が本当に楽しいかと聞かれれば疑問がないわけではない。


会社に拘束された仕事ではないので精神的には楽かと思いきや、直接お金が乱高下する様は、いつ墜落してもおかしくない尾翼の片方を失ったジェット機に乗っているようで、想像以上にストレスが溜まり生きている心地が薄れる時もある。


また、資産は減る一方でろくに収入がない分、将来の生活を考えると、どこかで方向転換しなくてはいけない。


辻は、間接照明で落ち着いた雰囲気のカジノレストランで、両肘をテーブルにつき他の人が食事する風景を眺め、そんなことを考えていた。


そんな折、レストランの入り口に立つ懐(なつ)かしい顔が視線に飛び込む。


お互い目が合うとその男も辻を覚えていて、偶然の再会に驚いた表情を一瞬見せると、すぐに笑顔で辻のテーブルにやって来た。


須藤雅人、四十代前半で独身だと聞いていた。

彼もまた金メッシュのやすの紹介で知り合い、プノンペンで一緒に酒を交わしたことがあった。


「こんばんは、お久しぶりです。以前、やすさんと一緒に・・・」


「そう、そう、もう一年以上前ですよねぇー」


須藤は、とても人懐(ひとなつ)っこく、こんな海外放浪している辻に対しても礼儀正しかった。


今回も忙しい会社の寸暇を縫(ぬ)い、リゾート気分をのんびり満喫するためにわざわざこちらまで足を伸ばしたのだという。


須藤によると、対価の割りには高いサービスが期待できるらしい。 



「やすさんとは今も連絡を取られているのですか?」と辻は、奥歯に物が挟まったような意味深な尋ね方をする。


「うん、三日目前に、『中国の昆明で楽しくやってる』ってメールもらいましたよ」


「そうですか・・・、やすさんの安否を心配していたんで、元気そうで何よりです」

「どうかしたの?」
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