バナナの実 【近未来 ハード SF】
辻はゆっくりと太古の時代に思考を沈めてから、現代にまで至る一つの時代の流れを心のフィルムにイメージとしてその形を見る。
植物繁栄の時代から人間を除いた動物繁栄の時代、人類が出現して機械産業時代の到来。
自動車や飛行機、電機、驚異的な兵器が発明され、その間も戦争と平和の時代を何度も繰り返す。
それらは時代の進歩とも、あるいは、進化ともひとくくりに言えるかもしれない。
フィルムが終わりを告げると、グローバル化という言葉がふと宙に浮かぶ。
経済・文化などが国境を越えて世界中に広がること意味する。
この小説には、自分の未来が書かれている。
条件が揃(そろ)わなければ、その文字で模(かたど)られた未来は実現しないだろう。
いかに選択するかが問題なのだ。
彼は、大学時代の六年間で学んだことを生かせるチャンスだと思った。
それを言葉に起せば、自分で現在の問題点を見つけ、独自の方法でそれを解決すること。
学校を卒業して十年経とうとするが、幸い今でもその脳内シナプス回路は彼の中でしっかりと生き永(なが)らえていた。
辻は、一般的に“小説の世界”と“映画の世界”、そして、我々の“現実の世界”は、それぞれ独立していると考えていた。
たとえ、ノンフィクション小説を原作に映画化したとしても、小説と映画、現実の世界には、大きな隔たりがある。
何をもってそう感じているのかは上手い言葉が見つからなかったが、彼は、それら三つの世界の壁を取り払い、それぞれの世界を直接結びつけたいと思った。
それは、技術の進歩により、今の時代だからこそ可能なはずだと。