バナナの実 【近未来 ハード SF】
第24章   相部屋空間




■ 第24章 相部屋空間 ■





街路樹の影が足元に影を落とす頃、カンボジアのポイペットからタイのバンコクに到着した辻は、ドミトリーのある常宿でチェックインの手続きをしていた。


すると宿の奥から、寝起き眼(まなこ)で髪が逆立っている見覚えある顔が、首をすくめてこちらを覗(のぞ)く。

一つ年上の鉄夫だった。


「あぁぁっ! 鉄ちゃん、お久しぶりです!」


「辻さん! いやー、どうもどうも」

二人は、高校の同級生と予期せずに出くわしたかのように喜ぶ。


鉄夫は、階下の犬が騒がしいので、それをなだめに来たらコンタクトを忘れた目を細めていたらしい。


二人は、一年半ほど前、カンボジアのリゾート地、シアヌークビルという港町で意気投合し、気の置けない仲に。


鉄夫は、カナダにワーキングホリデーの経験があり、わりと広い視野を持ち、気さくで直情で草好きな男だった。


「鉄ちゃんに伝えたいことがあってさ~。よくシアヌークビルで草吸って、あのドイツ人ヒッピーと変な行動してたじゃん」


鉄夫は、旅行者が多く滞在する地区にある歓楽街の店の柱から店の物陰へ、「FBI捜査網をかいくぐれ」と言って、ドイツ人ヒッピーと二人、しゃがんだり匍匐(ほふく)前進したりと見えない影に逃亡劇を演じていたことがあった。


「あれから僕も、中国で草にハマってさぁ。あの時の鉄ちゃんの行動心理がよ~く分かったわあ。僕もカンボジアでFBIから逃げたし。あれ、ドキドキだけど可笑(おか)しいよねぇ~」


「もう、バレバレなんだけどね! おもしろいでしょう」と鉄夫はコニコニする。


「もうー、鉄ちゃんと一緒に吸えなかったが、唯一の心残りだね」と名残惜しそうに口にすると、二人してどっと笑った。
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