バナナの実 【近未来 ハード SF】

すると、化粧水でお肌をパチパチしていた洋子の前の、入り口に近いベッド下段に寝ていたヒロシがむくっと起きだした。


「それ、ええやろ。タイ人、公共の場でめっちゃ吸っとるでぇ」


「へぇ~、そうなん」と結衣は、何度もスースー深く深呼吸するように、メンソールの快感に酩酊(めいてい)していた。
 

「なに、そんなに病み付きになる物なんか?」と辻や洋子も興味のツボを刺激されたようだ。


翌夕方、相当な感染力だったらしく、ドミではそれが流行していた。


ヒロシが興味本位で購入し、ドミの二人に勧めたところ一人がハマり、昨日の時点でその愛好家はヒロシと太一の二人だけ。


それが今日になって、新たに三人に支持され一気に五人になっていた。


ベッドの上でそれを吸っていた22歳の洋子は、楽しそうに「ヤッピイー!」と叫んだ。


「そのヤッピイー!って、何なん?」


ヒロシは、不満そうな興味を持った感じで尋ねる。

「うーん、嬉しいときに使う言葉かなぁ~」


そんなん言う言わないの軽い言い合いになったが、二人の間にギスギスした響きなど微塵(みじん)も無く、むしろ和んだ空気の中、世代の言語格差ということでヒロシが折れる。


「じゃあ・・・」というヒロシの一声で、ドミの皆はそれをヤッピイーと命名した。


「うちらゴレンジャーやん。だって、一人一人のヤッピイーの色違ごうてるもん」


そんな他愛ないことで、何も無いように見えたドミのいたる空間から笑い声が立ち上る。


そんな中、鉄夫だけはこの新種に抗体があるのか、「俺は、ケミカルはやらねぇんだよ」と惚(とぼ)けたように息巻く。
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