バナナの実 【近未来 ハード SF】
明日、帰国する太一は、六個くらいお土産に買って友達に配ろうかと話している。
「ヤッピイー、日本で流行るかなぁ?」と結衣がみんなのリビングに問いかけると、「女子高生がテスト中に嗅いでそう」と洋子が返す。
すると、「こんな感じかあ?」とヒロシがヤッピイー二個を使って、両方の鼻の穴に突っ込み目を据えて実演すると再び笑いの渦が巻き起こり、皆「あるあるある」と連呼した。
「かばんの手提(てさ)げに付けたりねー」
「絶対流行るよ、これ!」結衣が一段と声を張り上げる。
「ヤッピーを嗅いでいる自分の姿って、カッコいいんじゃん」突然、居間にいたイケメン太一が言い出す。
「イケてないと思うぜぇ~」
辻もヒロシも意見が一致したが、太一は、ヤッピイーを鼻に穴に突っ込んだ自分の姿をデジカメで撮影。
「これ、ダメすっかー?」
太一からカメラを受け取った結衣のベッドに、辻とヒロシが集まり液晶画面で確認するが、一様に首を傾げる。
辻は、それに賛同しながらも、内心逆のことを考えていた。
世の中、分からないことがたまにあって、普通に見たらダサイ事が一転カッコイイに転じる場合だ。
ファッションや音楽でも、今まで古く受けないと思われていたものが、突然見直されたりすることがある。
案外、太一の感覚は、我々一般人の最先端をいっている可能性があるかもしれない。ただ、初め奇妙に映るため受け入れ難(がた)いだけなのかもしれないと。
ドミの仲間揃(そろ)って夕食へ出かけた晩、一階にあるシャワー室からターバンのようにタオルを髪に巻いて戻った結衣が、隣のベッドでコーヒーとくつろいでいた辻に声をかける。
「ワタシの荷物、チョー重いんですよ。カメラなんて三台も・・・」