バナナの実 【近未来 ハード SF】
結衣にとって辻ら長期滞在者は、何のために海外にまで来ているのか、何が毎日楽しいのか?
言葉にこそしなかったが、その目的が分からない不可解な生命体に等しかった。
観光にも興味は無いようで、ひなが部屋にいることが多い。海外に引きこもる、外こもりだ。
何かの旅行記で、”沈没組み”という言葉聞いたことがあるが、彼らがそうなのだろうか?
正(まさ)しく、航海の途中で沈没してしまった鉄船のようにも思えてならなかった。
それでいて、意志の強い健在な羅針盤と知識を豊富に溜(た)め込んだ航海日誌は、手垢(てあか)の哀愁(あいしゅう)が積もった夢見る船主のように、他の旅人には無い魅力があるから不思議でもあった。
「これは、デジカメでしょう。これもデジカメなんですけど、予備で今回の旅用に新しく買ったんです。でも、この古いデジカメの充電器忘れちゃって使えないんです~」と泣きを真似た声でいう。
「え~、で、最後のそれは?」
「これは、昔のフィルム式のやつです」
鉄夫やヒロシはどう思っているか分からなかったが、辻は、今の結衣がかつて偏見を抱いていた今の自分のような存在に、同じような感情を持っているのではないかと内心気にしていた。
そう思ってしまう辻が世間一般的な見方なのだろうけど、あえて自ら見えない溝を掘っているいるようにも辻は感じていた。
「結衣ちゃん、天然って言われることない?」
「分かりますー? よく『動作がゆっくり』って言われます~」
彼女は、まだ学生だけあって若々しく、長い髪を掻き揚げるだけで悩みも吹っ飛んでしまうくらい眩しかった。
結衣は、海外でボランティア活動に参加することで、大学の単位取得のために来ていた。