バナナの実 【近未来 ハード SF】
「ワタシ、海外の福祉に興味があって、将来は自立型のボランティア組織を運営して、地元の人たちを支援できたらと思っているんです ―――― 」
ところが、先輩に『ボランティアって結局、自己満足にすぎない』と言われたらしく、進路の不安を辻に打ち明けたのだった。
「そんなことないよ」辻は、すぐに声にした。
ところが、ベッド一つ挟んで iPod をいじっていたヒロシは、声を重ねてほぼ同時に「そうでしょう」と言い切る。
「この前も議論になったでしょう」
身に覚えがなかった辻は、どうやら以前にも話題に上がったようで、自分が来る前のグループと勘違いしたのだろうと思った。
辻は、自分の航海日誌を見せるように、考えを彼女に伝える。
「自分の時間や労力を使って人のために何かするなんて簡単にはできないから、僕は凄いと思うし尊敬するよ。
『自己満足にすぎない』そう思う人もいるだろうけど、そんな簡単には言い切れないと思う」
辻は、そう言いながら、彼女の瞳に昔の自分を重ねていた。海外を旅して間もない19の頃は、今の彼女の様に自分も輝いていたに違いない。
それがいつのまにか海外にいる事が当たり前の日常になり、輝きを失ったのはいつからだろう?
「ワタシ、将来、ボランティアだけで生活していくか、それとも他の仕事をした方がいいのか悩んでるんですよー」
まだ濡れている艶(つ)やかな長い髪を、バスタオルで拭きながら結衣はそう言った。