バナナの実 【近未来 ハード SF】

しかし、かつて自分もそうであったように、他の多くの人も理解できないのではないか?という疑問も平行していた。


まるで、それを経験した人だけが理解できるように。

辻は、小説の要約をA4用紙にまとめる。

彼は、この時点でのシナリオを“ファースト ソート(THE FIRST THOUGHT)”と密(ひそ)かに命名していた。


このファースト ソートこそ最も短期間で、かつ効率的に小説ストーリーを実現できると考えた。


無名の新人が特別な契約を出版社と結ぼうというのだから、業界からすれば異端児扱いされるだろう。


小説の内容自体かつてない特異な存在を求めているのだから、その過程がそうであってもおかしくあるまいと、辻は勝手に納得することに決め込んだ。


そもそも大学を卒業して就職しない時点で、すでに社会の異端児と見なされるのが世の常識。


彼は、自分が他人と変わっていると認めても、それが悪いことだとは思っていなかった。


特別な契約による報酬は、次のステップにつなげる活動資金に過ぎない。


やらねばならぬ仕事は、山のようにある。

映画製作、韓国での出版化に映画化。それらが成功したら、ハリウッド映画の製作だ。


これらすべての過程を自身のブログから発信することを通じ、その中で行われる読者との会話は、”小説”と”映画”、そして、”現実世界”と”読者”を結ぶ共通の橋になると考えていた。


辻は、出版社で持込の企画原稿を受付けてもらえるかどうか、携帯電話のボタンを押す。
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