バナナの実 【近未来 ハード SF】

辻にとって、自身の小説が映画の脚本へと進化する過程は、さなぎから羽化する蝶のように、心身ともに休まる暇がなかったようだ。


時には何時間も撮影が滞り、脚本家が改稿する。そして、また議論し作業は進められていった。


脚本家の頭が爆発し、そのすべてが脚本にこびりついた頃、ようやく最終的な脚本が完成し、それにしたがってキャストも決まっていった。


キャスト選考には読者の意見も、監督やプロデューサーと同程度の発言力として考慮されたが、俳優陣の日程などの都合により、希望のすべてが実現したわけではなかった。


これらの決定事項がブログで発表された際、一時的に世間から多くの注目を浴びることになる。


ケータイ小説から始まった架空のサクセスストーリーが、現実に出版・映画化されるという前代未聞の大衆劇が、そのシナリオ通り進行していたからであった。


ここまで来ると、今まで一部特権階級だけの嗜好品だった秘密事も、一般庶民に開放されるように、時代の最先端を紹介する雑誌コラムやテレビメディアにも紹介されるようになったのは、この頃からであった。


その反響は、ウェブ上での議論の価値をますます高め、同時に、リアル書店とアマゾンでの売り上げは、翼をはやしたうなぎのように急上昇していった。




片や映画の撮影は、絵コンテが完成し、各種手配が決まるとクランクイン。


辻は、撮影クルーらと共に行動する中、映画について多くのことを学び興味を覚えていった。


彼は、できるだけこの現場の感動と雰囲気を伝えたいと思い、現場でもビデオカメラを回しウェブサイトに投稿することを自らに課する。
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