バナナの実 【近未来 ハード SF】
第26章 羊飼い
■ 第26章 羊飼い ■
バンコク滞在も半月過ぎると、ドミトリーの面子(めんつ)も変わっていた。
『どうしようかなあ~』
『イヤー、絶対、楽しいと思うよ。草も待っていることだし』
一晩早く、ウエディングドレスをまとったような笑顔で彼氏のホテルへ引っ越した洋子に続き、他人を惹(ひ)きつける魅惑を宿した鉄夫は、カンボジア行きを迷うヒロシを弟子に従え、アンコール遺跡群のお膝元シェムリアップへ、他の同士もそれぞれの目的地へと旅立っていった。
そして、彼らと入れ替わるように、最近、男性二人がドミに入り、年輩(ねんぱい)の佐川は、いつラオスへ立つか時期を決めかねていた。
鉄夫らと一日違いでこのドミに入居してきた30歳のアキラは、北京の某大学にある語学科で中国語を勉強中。
夏休みをバンコクでゆっくり過す予定で来たらしい。
「言葉は話せるようになりました?」
「そうですねえ。日本語を教える代わりに中国語を教えてもらう人が見つかってから、随分、抵抗なく話せるようになりました――――」
アキラはサラリーマンをしていたことがあったらしく、言葉遣いがしかっりしていた。
そして、もう一人の旅人である22歳の池永は、英文科専攻の大学生。初めての海外旅行に好奇心旺盛(おうせい)だ。
辻の一日といえば、もっぱら部屋にこもって小説を書くこと。
タイはすでに何度も訪れていたので、今回、特別どこかへ観光する気はなく、加えて金銭的余裕もなかった。