バナナの実 【近未来 ハード SF】
この半年間、辻は、映画制作に携わる傍(かたわ)ら、ハリウッドに進出する準備を進める。
その漸進(ぜんしん)として、日本で出版された小説『セカンド ソート』を各言語に翻訳し、アメリカやヨーロッパなど海外でも販売開始。
それに平行して、英語でのブログ運営も開始されていた。
彼は、日本でしてきたことと同じことを、英語のブログでも行おうとしていたようだった。
つまり、バナナの実がなる条件とは何なのか?ということを、出版された小説に興味を持った読者とウェブ上で議論すること。
そして、それらを多くの読者と共有し可視化することで、読者と著者の共同作業でハリウッド映画を製作したいと考えていた。
ところが、翻訳された辻の小説は、それほどよい売り上げを伸ばしていなかったらしい。
したがって、彼のブログを訪れる読者も期待した数には至(いた)らなかったようだった。
辻がその理由を知ったのは、ある読者からのコメントであった。
彼女の話によると、アンナ・Kという女性が辻の英語ブログより半年も前に、つまり、ちょうど彼が日本映画化の決定を発表する直前に、辻と同じような内容の小説ブログを立ち上げていたという。
そして、辻の翻訳された小説出版より三ヵ月早い時期に、彼女が先だって小説出版していたらしい。
その小説というのが『THE PERFECT AMERICAN DREAM(パーフェクト アメリカンドリーム)』というタイトルで、今、世界中で人気を博しつつあるということだった。