バナナの実 【近未来 ハード SF】
実際にその著書を読んだことがあるという別の女性の話では、小説のコンセプトが辻のそれと同じらしい。
なんでもリタ・J という女性主人公があらかじめ、自身の過去から成功する未来を小説調に綴り、映画化されることで彼女のサクセスストーリーが現実世界に誕生する内容であるという。
もちろん、コンセプトが同じというだけで、登場人部やストーリー展開は150度まるで違うとのこと。
そして、彼女のブログとマイスペースがリンクしていて、英語圏で大変な注目と絶賛に近い評価を得ているのだという。
マイスペースとは、世界最大の仮想ネットワークサイトのことで、ミクシィの世界版といったところだ。
その規模は、ミクシィの30倍で、2億4000万人もの利用者がいる。
これらのことから、英語圏への出足の遅れが市場の独占を許した格好になったと辻は思った。
これ以上、彼にはどうすることもできなかった。
もともと小説には、オープンソース的要素があったわけで、手法が似ているという理由だけで盗作にならないことは、辻自身理解していた。
そもそも、このような事態が起こりうることは、ケータイ小説として発表した時点である程度予想していたことでもあった。
それでも、ケータイ小説としてすべてを公開することが、バナナの実がなる条件になると信じてやってきたことなのだ。
彼は、ネタ帳にある言葉を思い出していた。
『不完全なものでも早く世の中に出した商品が、マーケットを独占する』
もともとコンピュータ本体や、オペレーションシステムであるウインドウズソフトを日本企業が排出できなかった日本人気質を皮肉ったものであるが、小説の世界でもみごと歴史は繰り返される結果となった。