バナナの実 【近未来 ハード SF】
第28章 バナナの実
■ 第28章 バナナの実 ■
人の体力を徐々に奪う暑さが酷(ひど)かった日中。その熱気がまだ最上階のドミトリーにはしつこくこびり付いていた。
夕食から戻り万年閉じられることのない部屋のドア横に立った辻は、自分が外に出ている間に二人の若い日本人と50代男性がチェックインしたらしいと思った。
細身で頬のこけた年輩のその方は疲れているのか入り口横のベッド下段で、身軽でこじんまりしたリュックを枕元に置き、目を閉じたままカラカラになった体力を背中から充電しているようだ。
一方、学生の雰囲気漂う二人は、ボクシングで使用するサンドバッグほどもある大きなバックパックをベッド上段に、荷物を紐解(ひもと)いてはそこらいらに散乱させていた。
「成田空港でタイ語の会話帳なんて買っちゃったよ」
「オメェー、そんなもん必要ないだろう。んっなことより、どこ行くんだよ!」
日本から来たばかりのようで、これからどこのゴーゴーバーに行こうかと話し合っている。
ゴーゴーバーとは、歓楽街にある風俗バーの総称で、もとはパタヤに駐在していた米国軍のためにアメリカ式風俗バーを開店させたのがその発祥らしい。
「どうも」
「ちぃーす」
二人に首で会釈してベッドに腰を下ろす辻に、ちょうど上段にいた学生顔の男が、下を覗き込むようにして話しかけた。
「今夜は、出かけないんですか?」
「今夜”も”なんですが、カネに余裕がなくて。お金があれば、毎日、行っているんですけどね」と自嘲(じちょう)の半笑いを浮かべる。