バナナの実 【近未来 ハード SF】
第4章 奇術
■ 第4章 奇術 ■
今日も日中は酷暑であるが、下界から仰ぐ空はずっと遠くまで見渡せ、わたアメのような白い入道雲がプカプカ気持ち良さそうに浮かんでいる。
都会暮らしの辻が、今までそのように感じたことが無いくらい明らかに、日本のものとは違う広さをそこに感じる。
同じ宿だった松山は心の故郷(ふるさと)インドへ帰り、プノンペンにいた辻は、ガキ大将の子分がごとくやすと一緒にいた。
少しお茶目で豊富なやすの人生経験から色々教わることが多く、実際、一緒にいさせてもらい心底楽しいと辻は感じていた。
「グリップの握り方はこんな感じで、打つときも強く握らないで・・・」
「ああ、それじゃあ野球バットの握りになっちゃてるなあ」
ゴルフを教えて欲しいという未経験者の辻に近くのゴルフ練習場で、彼はその基本を教えたりもした。
海外で長期滞在するもの同士、やすもまた、自分を慕ってくれる辻との時間を楽しんでいるようであった。
ある午後の昼下がり、やすとの約束時間、辻はソルヤデパートのハンバーガー屋に姿を現す。
「おはようございます!」
「よう!」軽く手を上げ、目尻が下がった笑顔を見せやすは、飲みかけのコーヒーカップと食べ終えたバーガー包みをトレーの上に、タバコを吸う見知らぬ若い日本人と親しそうに談笑していた。
日本から来ると話していた、知人だろうか?
二人に近づくと、やすがセイジを紹介する。