バナナの実 【近未来 ハード SF】
「現在がここで、未来がここだとします」とあぐらをかいている両ひざに、それぞれ左右の掌(てのひら)を置くアキラ。
「ここからここまでの間は、普通、みんな無意識なんです」左手から右手の間を示す。
「たとえば、普段歩いている道は、みんな無意識で歩いているんです。もし1秒、1分、1時間、1日ずっと集中していたら疲れちゃうし、気がおかしくなります。
でも普段歩いている道でもちょっとしたきっかけで、いつもと違う点に気付いたり、『あっ、こんな所にこんなお店あったっけ?』なんて気づく時があるじゃないですか」
「はい」
「それが、無意識の中にいる自分から一歩抜け出た瞬間だと思うんです。
僕は現在のここから未来のここまでの間、普段みんなが気づかない無意識をコントロールできれば、少し幸せに生きていけると思うんです」
「・・・すると、現在のこの時点を決めることが大切ということですか?」
辻は、アキラの左ひざ上にある掌を指差す。
「いや、むしろ未来を先に決めなければと思います」
「未来ですか・・・」
外の雨風が二人のこもる櫓を攻撃するように、ドアに突き刺さる矢が音を立てている。
辻が外の闇に恐れることもなく腰の位置を入れ替えると、アキラは言葉を続けた。
「未来の究極は、“死”です。だから、いかに死ぬか、どのような死に方を望むのかを、先に決めなければいけないんです。
それが決まれば、そこから逆をたどって現在の自分のあるべき姿が見えてくると思うんです」
アキラは、合戦に向かい出るような強い眼力を、黒い瞳の奥に忍ばせ言い切った。