バナナの実 【近未来 ハード SF】

「もし、キリスト教の言う神がいて人間を創造したなら、神は人間に考える目的を与え、人間は『いかに死ぬか』とか、『どう生きるべきか』について考える意味はあると思います。


でもわたしは、人間が存在して物事を考えたり創造したりするのであって、その人間自体が『いかに死ぬか』なんて考えることに意味は無いと思うんです」


辻は、喉につかえていたパンを呑み込む様に少し理解できた気がした。


「さっき、『無意識をコントロールして良い未来をつくる』ということを聞いて興味を持ったんですが、心臓や呼吸は無意識に行っていますが、呼吸法である程度コントロールできるようになるんです。


甲子園の球児やテスト前の生徒に緊張しないよう、瞑想するようにひざの上に手を置いて、深く深呼吸させます。


すると、実際にわずかですが、血流をコントロールできるようになるんです。


肉体や心も同じで、心や肉体がそれぞれ独立してあるわけじゃないし、それらは相互に関係しているんです。


ですから、無意識をコントロールしてよい未来を作るという発想は面白いなあと思いまして」


男が話しを続ける中、外の暴雨に混じり向かいのゲストハウスから、賑やかな宴会が始まったような笑い声が聞こえてくる。


「フロイトが言っているんですが、『意識は氷山の一角で、その下には、目に見えない巨大な無意識があるんだ』と。


だから戦争をやめさせるとかいう時に、戦争は良くない事だから止めようと意識に訴(うった)えても、何も変わらないんです。


むしろ、無意識に訴えなくては効果が無いんです」


なるほど、言われてみれば確かに、と内心おじさんの言葉に関心を寄せる辻に男は、さらに畳み掛ける。
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