バナナの実 【近未来 ハード SF】
ドミの長い蛍光灯が消されみな睡魔に取り付かれると、辻は、アキラの言葉を暗がりの魔よけの灯りに独り物思いにふけっていた。
そこにバナナの実が生る条件があったから、そこにバナナの実が生ったかぁ・・・。
バナナの実が生ったのは、偶然なの?
それとも必然か・・・?
条件が揃えば、必然になる・・・?
鉄夫との再会は、偶然か?
三週間、鉄夫とこの宿で再会した時のことが思い出される。
もし、誰か友人に、鉄夫がこのドミに滞在していることをメールか何かで知らされていたら、僕と鉄夫の再会は必然だったことになる。
問題は、誰が知らせ、いかに自分の知りたい情報を前もって知ることができるか?ということだ。
辻は、条件さえ揃(そろ)えば、偶然と呼ばれる出来事でも必然になる気がしてならなかった。
翌夕方、辻がベッドの上でパソコンのキーボードを叩(たた)いていると、外から戻ったアキラが声をかけて微笑む。
「小説は、順調ですか?」
「おかえり! ちょうど、昨日のアキラさんとの会話を書いていました」
辻が小説の構成について相談すると、ベッド横にある青い卓上扇風機のスイッチを押し、虎の絵柄があしらわれたTシャツをパタパタと扇(あお)ぎながら言葉を編(あ)み出す。
「出版された小説と上映される映画とでは、映画の方が少し先まで描くというのはどうですか?」
「それは、小説の中でそう書くの?それとも、・・・」
「いや、ああっっ、そうなりますね。映画オリジナルなんですが、映画では、小説に書かれていない未来まで描くんです。
でも、そうしたら、小説に映画の様子が描けないですね」と編み目を戻すような笑顔を浮かべた。