バナナの実 【近未来 ハード SF】
「なるほどねぇ。言いたいことはよく分かる。どうやって、それを小説の中で表現するかだよねぇ」
アキラは失敗したような顔をしていたが、辻は、確かにいいアイディアだと思った。
「旅先で出逢う仲間って、どうしてこうもいい奴ばかりなんだろうね。
日本で生活していたら絶対に反(そ)りが合わないような連中でも、気軽に相談に乗ってくれるじゃん」
「みんな同じトリップを、共有しているからじゃーないですか」
「ああー、それは、あるかも」
辻は、このドミで出逢った人の意見を小説に反映させると、自分ひとりで考えていたストーリーよりも良い作品ができる気がしてならなかった。
辻は、再びパソコンに向かい鉄夫にもらった浜田省吾のアルバムCDの中から、“MONEY”という曲を聴きながら執筆作業を進める。
すると、映画のワンシーンをコマ送りで観ているかのように、歌の歌詞と小説シナリオが脳内で融合していった。
どこの町かも分からない寂(さび)れた田舎町、一台も車が通っていない一車線の真直ぐな車道風景。
風が道脇に生えた若草をなびかせる中、真っ青な地平線の空を背景に車道の真ん中を歩く後ろ姿の辻が遠ざかる。
回り灯籠(まわりどうろう)のように挿入される、父親を馬鹿にしてなめていた高校生の頃の姿。
自分が見えないまま、いつしか大人になった気がしていた。
会社で働くばかりで、親父の人生何が楽しいだろう?って、未熟者には分からなかった。
何も楽しい事なんて、無い様にさえ見えた。大人になったら、そんな人生だけは御免(ごめん)だと・・・。
親父は、自分のしたい事を誤魔化し、僕を育ててくれたのだろうか?