バナナの実 【近未来 ハード SF】

書店には、彼の小説がずらりと平積みされ大盛況(だいせいきょう)、映画館にも未来を現実にした話題作を観ようと長蛇の列。


雑誌やテレビでは、連日辻の記事が取り上げられ時の人となっていた。


やっと手にした成功を目の前に、自室のソファーに独り座っている辻。


それら絢爛(けんらん)に積まれた大金を噴水のように頭上へ放り投げると、花びらのように部屋一面に広がった。


彼は、その一部を握りしめると再びプノンペンへ飛んだ。


ドラムとエレキがビートを刻む夜のナイトクラブ、若い白人男性とニアンが話をしているのを目にすると彼らに近寄る。


そして、ポッケットから無造作に取り出す100ドルの札束を男の胸元に押し付け、ひらひらと地面にこぼれ落ちる権力の象徴をよそに、ニアンの腕を掴んで店を後にした。


深夜、ニアンをスポーツカーの助手席に乗せ、プノンペンの閑静なコンドミニアムの駐車場に滑り込む。


駐車場前の外灯に映し出される緑の芝生と、プール周りのウッドデッキを照り返す外灯が高級感を漂わせている。


部屋の白いフカフカなダブルベッドの上で、ブランデーを飲みくつろぎながらテレビを見ている辻とニアン。


バルコニーの窓に目を向けると、街並みは輝く宝石のようだ。


部屋には一流職人の巧(たく)みが感じられる年代物の家具が並べられ、白い壁に飾られた高価な油画が部屋全体を引き立てている。


再びテレビに目を向けると、辻とニアンの姿がテレビ画面に映っていた。

時間が止まったように不思議な光景に釘付けになる辻。

テレビのカメラアングルはゆっくりと回り、部屋全体にレンズが向けられる。


拡大される同じ高級家具に同じ油画。
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