バナナの実 【近未来 ハード SF】
第29章   鏡の向こう側





■ 第29章 鏡の向こう側 ■






大金を手にして、着の身着のまま過していた辻であったが、アンナ・K のブログを翻訳するサイトは、一年間続いていたようだ。


彼女の小説は、全世界で300万部を売り上げ、日本でもその翻訳された小説が、70万部近いセールスあった。


アンナ・K は、辻と同様に主にアマゾンドットコムと手を組み小説販売していたので、彼女自身、それらの売り上げから1650万ドル(18億円)を手にしていたことが、読者ブログからリアルタイムで発信されていた。


辻の翻訳されたブログ記事によると、小説売り上げが1350万ドル(15億円)突破した時、そのほとんどを製作資金に同名小説の映画化、『THE PERFECT AMERICAN DREAM(パーフェクト アメリカンドリーム)』の制作が発表されたらしい。


その後も投資会社から集めた豊富な資金を背景に、読者の希望を多く取り入れた脚本とキャスティングは、制作段階から世界中の多くの人々に支持される。


辻の時と同様、読者自身が映画制作に携わるような面白さがそこにはあったようだ。


映画化されることでフィクションが現実になるという奇抜なアイディアも追い討ちをかけ、劇場公開されるやいなや全米興行成績TOP10チャートに四週連続チャートイン。


最終的な興行収入は、アメリカだけで4100万ドル(45億円)を超えた。


製作側はさぞウハウハと思いきや、20億円もかけた製作費回収でいっぱい、利益は、海外マーケットでの販売に委(ゆだ)ねられたと聞く。


アンナ・K のハリウッド映画は、2007年9月5日、辻が秋元氏の新聞記事に驚愕し、その時感じた言葉にならない直感がいま現実の形となっていた。
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