バナナの実 【近未来 ハード SF】
これがカジノかぁ・・・。
掛けているのは、チップと呼ばれるちょっと重たいプラスチックのようなものである。
おもちゃのような軽さはないが、これに『100バーツ』だとか『5000バーツ』と書かれているだけである。
精巧(せいこう)にできているが、遠目で見たらおもちゃに見えなくもない。
なんでこんなプラスチックに5000バーツ(1万6000円)もの価値があるのか?
1万6000円を掛けていると頭の中では分かっていても、そのテーブルに掛けたのは、ただの色のついたプラスチックでしかない。
だから、大金を賭けたという実感がわかない。
もしかしたら、これがカジノマジックなのかもしれない。
気がついた時には、大金を失っているのである。
やすとセイジは、ルーレットのあるテーブルの近くで立ってビールを飲んでいた。
やすがこちらに向かってくる辻と目が合うと、片手を上げる。
「調子はどう?」
「やられました。1万2700バーツ(4万2000円)すりました」
「エッ!」
やすはびっくりして、少し大げさにふんぞり返ってみせる。
辻は、落ち込んだ表情を悟られまいと落ち着きを払って状況を説明した。
「あららー、つらには逆らわない方がいいんだよ」
「”つら”ってなんですか?」
「出目が続くことを、”つら”って言うんだよ」
「そうなんですかぁ・・・。知りませんでした」
結局やすは、負けた260万円を取り戻したらしく、辻とセイジは、マイナス1万5000円という三泊四日であった。
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