バナナの実 【近未来 ハード SF】

◆後半は、作者自身の未来を描く。まずは、その描写手法の独自性に注目させられる。


『しかし、この小説はその逆で、小説が出版され映画化されることで現実世界にサクセスストーリーが誕生するという内容の小説となっています』の一文だ。


まさに、この件が、本作における作者の意図そのものを語っている。


そして、これがあたかも三人の異なる作者が作品に登場してストーリーを紡(つむ)ぎだしているがごとく錯覚を与え、魅力に繋がっているのである。




「おっ! 作品の意図は理解されたようだ。へぇー、そういう錯覚を受けるんだあ」


編集者の予想外の反応に辻は、生の読者目線を意識に植えつける。



◆ただ、前半に比べて、己の未来像を描いた後半のストーリー展開には、いささか難ありとの印象を受ける。


作品の前半部は、あくまでも著者の実体験を基に描かれているので、リアリティがあり筋も通っているのだが、それだけに後半のサクセスストーリーが極めて胡散臭(うさんくさ)く思えてしまう。


例えば、出版にこぎ着けるまでをもっと紆余曲折(うよきょくせつ)に描き上げるとより現実味が増そう。



「うんー、そうだよなあ。さすが、プロの指摘だわ、参考になるなあ」
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