バナナの実 【近未来 ハード SF】
「将来、プロになれる有望な選手のトレーナ契約の話がきていてさー、今は、その連絡待ちなんだ」
彼は、希望に満ち、生き生きとした顔つきで話していた。
福井は、42歳、バツイチ。
とても40代には見えないくらい若々しく、元サラリーマンだけあってマジメそうな人柄だが寡黙であった。
「仕事、仕事ばかりで自分の時間もろくに無いくらい仕事詰めでさぁ、ちょっと息抜きしたくなって思い切って会社を辞めて、少しずつ旅している途中」
日本で20年働き続け、半年前に会社を辞めたらしい。
今までどこを周ってきたんですか?と尋ねる辻に、「アメリカや南米に南ヨーロッパ。これからチベッドに行く予定なんだ」と、童心のように目を輝かせていた。
亮は、カラテの経験があるらしく上達が早が、それに比べ、辻と福井は、それぞれにどこかしら無駄な動きが目立つ。
それでも辻は格闘技が好きだったので、福井はエクササイズ感覚で、毎日、楽しく練習に参加していた。
汗をかいた後は、よく近所の焼鳥屋で、目の前で焼く本格炭火焼の肉や野菜の串焼きツマミにビールで乾杯。
亮は、酒が入ると愚痴をこぼすことが多かった。
「日本でできるバイトはやりつくしてさあ、ホストなんかもやったよ」
「亮さん、それで話すのが上手いんですね。僕は、口下手なんで羨ましいっすよ」
「そんなことないでしょ。これくらい普通だよ」と爽やかな笑い声で、亮が謙遜(けんそん)する。
彼は、高校卒業後、日本でアルバイトや期間工である程度お金が貯まると、海外の物価の安い国で暮らしてきたという。
「最近、できるバイトも年齢制限に引っ掛ってねぇ。もう困ったよ、辻ちゃん」と全然、困っていない感じ。
「そんな、僕に言われてもー」
辻がすねた声を出すと、「それは、そうなんだけどねぇー」と満弁の笑顔と妙に明るい口調で返ってくる。