バナナの実 【近未来 ハード SF】
彼は何度か経験があり、タバコを吸うように「ボコボコ、ボコボコ」と、煙が水の中を通る音を立てながらガンジャを吸い始めた。
辻は、少しビクつきながらもガンガン吸いだす福井に、目が釘付になる。
ほんの数分で、福井に変化が・・・。
ジロウが、「福井ちゃんおもしろい?」なんて、子供をあやす様に尋ねると、ゲラゲラ笑ってタイル張りの床を、半ば痙攣(けいれん)しているように腹を抱え、それが止まらないようだ。
何がそんなに面白いのか、不思議な表情を作る辻にジロウが助け船を出す。
「キマると結構なんでもないことが、妙におかしくて仕方がないんだよ」
福井は、熱がある病人のように「音楽 貸して」と声を震わせ、MDウォークマンのヘッドホーンを耳にあてる。
そして、ある時間周期で、「ウッヒッヒッヒッヒ!」と一人、体を乗っ取られたエイリアンのように、溶けた笑いで辺りを転げている。
「今、福井ちゃん、スゴイことになっているんです」
亮が力説するが、辻は、食べたことの無いトスカーナ地方原産の、トリュフの香りを想像するように気になりだした。
「オレは、ある程度、耐性があるから、もうこんなふうにはなれないもん」
ジロウが福井を見て羨(うらや)ましそうに口にする。
「耐性って?」
「長く吸っていると体が慣れちゃって、だんだん効きにくくなるんだよ。一週間も抜けば、また効くようになるけど。だから、よく吸う人は、そうしているよ」
そのうち、音楽を聴いていた福井は、ベッドの上で体を前後にリズムよく揺らし始める。
それを目にした亮が、さも経験があるように貧乏ゆすりを実演し、福井と辻の見ない溝を埋めようとした。