バナナの実 【近未来 ハード SF】
「こう足が動いているでしょ」
「はい」
「それが、止められるのに、心地いいから止められないんだよ」
「・・・?」
「いや、止めようと思えば、止められるんだよ。でも止まんないんだよなー。今、福井ちゃんは、そんな状態なんだよ」
「ええ」
空返事する彼には、ロシア語で上演されるオペラと同じくらい、さっぱり意味が伝わらない。
福井は、ナマケモノのような動きで、楕円を描くようにゆっくり体を回していた。
すると、シャワー室に近いベッドの上で黙々と吸っていたジロウから、水パイプが辻に回ってくる。
イヤならパイプを拒否できたが、辻は、むしろ、――。
亮とジロウのガンジャ経験が豊富であることは、普段の会話や仕草から見て取れた。『人生の経験として吸うのもいいものだよ』という、亮の言葉を信じてみようとしたのかもしれない。
彼は、自然とパイプを手にしてガンジャを吸った。
「ガッハッ! ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ!」
タバコを吸ったことがなく、煙の吸い方が分からない。見よう見真似の自己流で小さな水パイプを使い、肺を煙で染めようとするが、すぐにむせてしまう。
「煙を肺に7割吸ったら、あとの3割は、鼻から空気を吸ってごらん」と亮のアドバイス。
「ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ! ガッハッ!」
何度かむせて気持ち悪くなりながらも、それを実践するとわりと簡単に、煙を肺に入れることができた。