バナナの実 【近未来 ハード SF】
「チュン チュン」
「キッキィー」
こちらに語りかけるような小鳥のさえずりが、上後方から聞こえた。
臨場感溢(あふ)れるそれに驚き目を開けると、二メートル後方には壁があり窓が閉まっている。
辻には、そこに窓があるようには聞こえなかったのだ。
なんだ、この感覚は?
スゴイ、これが・・・ガンジャの力なのか?
窓の閉じられた部屋で、外界から聞こえる鳴き声はもっと小さく音がこもるので、すぐに”あっ、外で鳥が鳴いている”と分かる。
亮さんの言っていた、『音が綺麗に聞こえる』と関係しているのか?
スピーカーから聞こえたその鳴き声は、森の中で聞いたそのものだった。
次第に熱せられるフライパンのバターのように音もなく香りを立て、現実と幻想の境が溶けてゆく。
ジロウはベッドの上で、他の三人は、白いタイルの上に思い思いに寝そべり、それぞれにトリップしていた。
数日後、各々夕食を終え福井の部屋に集まった辻ら四人は、再びガンジャを吸うことに。
今回、始めからガンガン飛ばす辻は、息を止めたまま亮に、細切れの言葉で尋ねた。
「音が 綺麗に 聞こえる 意味は 分かったけど、 食べ物が 美味しく 感じるって、 どんな感じ?」
「オレンジをこう、ガブッと一口食べたら、もうー、ジューシィーで堪(たま)らないよ。果汁が口の中からどんどん湧き出て、渦に飲み込まれる感じがスゴイから。ヨーグルトも好きだね。濃いいからねー。ヨーグルトがもうチーズのようだから」