バナナの実 【近未来 ハード SF】
「そうそう、オレンジは、巨大な果汁の中にそのままダイブする感じでしょ」とジロウが言うと、「ビスケットのこんなデカイ缶、独りで全部食べちゃうから」と、大玉スイカを掴む仕草で福井が輪に加わる。
楽しそうに話す三人をよそに、それらを試したことのない辻は、湿気(しけ)たせんべいのような顔をしていた。
「辻ちゃん、もう、ホッコリだね」
「ホッコリって、言うんだ」
「亮さんも、ホッコリだね」
「ホッコリだよ」
亮が、ニンマリすると、「ガンジャは、神様からの贈り物だね」というジロウの言葉に、辻と福井が渾身(こんしん)の笑顔でうなずく。
もしあの世に天国があるのなら、今、まさに一番近いその楽園に僕らはいるのだと辻は思った。
皆があの世でマッタリしていると、ジロウが「爆弾だよ」と口の角をヒクヒクさせ、飴玉を出してきた。
「何か違うの、普通のと?」
頭だけ動かし、いいから食べてみな的な目配せをする。
見た目は普通の飴だが、何か特別な仕掛けでもあるのだろうか?と思いつつ、指で摘(つま)んだそれを舌の上に乗せる。
「・・・」
「うーん。凄いね、これ」
口内にほとばしった、イチゴのフレッシュ果汁。まるで、新鮮なイチゴにかぶりついたようだった。
確かにこれは、爆弾だ。
手榴弾(しゅりゅうだん)という代名詞がぴったりだった。
「ジロウさん、世界で一番おいしい飴は?って訊かれたら、ガンジャでキメて食べるイチゴ飴ですって、これからは答えるよ」
「あー、辻ちゃんにヨーグルト食べさせたいなあ」と、亮が足をバタつかせる。