バナナの実 【近未来 ハード SF】
「ジロウさん凄いもの持ってるねぇ。爆弾だよ。よく国境のエックス線検査パスしたよね」と福井の言葉に、みな力が入らないのか一様に、気の抜けたサイダーのようなニカッとた笑みをする。
メロン爆弾とイチゴ爆弾は、辻の常識を粉々に粉砕したのだった。
皆すでにイイ感じにキマっていたが、しばらくして、何かを飲みに外へ出ることになった。
福井の部屋は、建物の四階。
部屋を出た四人は、連なって階段を下り始める。
だが、下りても下りても同じ踊り場と壁が繰り返されるだけで、なかなか一階に着かないなぁと感じる。
そう辻が思うと、亮が彼の心を透視したかのように、「今日の階段長いねー」と調子よくいう。
「ホント、長いなー」
他の皆も同様な気持ちだったらしく、密閉された階段に、笑い声とそれぞれの声が反響する。
「ところで、亮さん、なんで僕の心が読めるの?」
「なんでだろうね」
辻は、たったそれだけの会話が、たまらなく愉快でしかたなかった。
「やっと一階だぁ!」
誰かがそう言ったとき、後方を下りてきた辻もようやく一階を目にする。
さながら、八階から下りてきたようであった。
辻は、その違和感を亮に尋ねる。
「おもしろいでしょう」
彼は、笑顔でそう答えるだけだった。
「うん。おもしろすぎる」
辻は、スローモーションのようにヨタヨタと階段を下りてくる間抜けな四人組を想像し、おとぎの国に迷い込んでしまったような感覚に、少し興奮していた。
外に出ると、風で肌が気持ちいい。
それは、普段の気持ち良さとは違って、恋人に爪の腹で優しく撫でられているようなゾクゾク感だった。