バナナの実 【近未来 ハード SF】
第7章 実世界
■ 第7章 実世界 ■
数日後、B出版社を訪れ30代の若い男性担当者に話を伺った辻は、疑問の包みを開いた。
「出版には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?」
社内の会議室のような小さなブースの一つで、大きなテーブルを挟んで対面している辻は、企業面接を受ける社会人のごとく緊張していた。
「今の原稿枚数を3割スリム化したとして、判型にもよりますが、このハードカバーサイズで300万円弱になると思います」
担当者は、近くにあった小説を手にとって彼の前に置く。
「さ、300万円ですかあ」
尻上がり口調の辻は、予想以上の金額に目を丸くする。
「出版費用は構わないのですが、小説の内容にあるような特別報酬という契約は頂けないでしょうか?」
辻の主張する特別報酬とは、仮に50万部以上部売れれば、印税とは別に出版社の利益の半分を著者に分配し、50万部以下の場合は、その特別報酬は発生しないという内容であった。
完成した原稿枚数から推測すると小説単価は、1600円。
書店・取次店のコストが3割、制作・宣伝コストが2割。印税1割とすると、出版社の利益は、単価の4割となる。
通常50万部売れれば、出版社の利益は、3億2000万円。
しかし、そこに特別報酬の契約が履行(りこう)されると、辻は印税と合わせ2億4000万円を得て、出版社の利益は1億6000万円に減る。
これは、出版社が普通に小説を25万部販売した利益に相当するというものだった。