バナナの実 【近未来 ハード SF】

担当者から笑顔が消え、少し渋くなった気がした。

「それは今回の本が売れて名前が売れれば印税も増えるでしょう」

辻は、臆(おく)せず言葉を続ける。


「小説の中で描いているようにそういった契約を頂ければ、私はブログの中でその契約内容を公開します。


特別な契約を結ぶ事は前例のない事でしょうから、小説に描かれた未来が一つ現実になったということで読者へのアピールになると思います」


無名新人の処女作が1万部売れれば大成功といわれる出版業界にて、素人同然である辻の小説が50万部も売れる可能性は限りなくゼロに近い。


だが、特別な契約を結ぶことが50万部以上売れる条件であり、それが偶然ではなく必然になるのだと彼は伝えたかったのだった。


なぜなら、この小説の内容が現実世界で実現することと小説が50万部以上売れることは、同じことを意味しているからであった。


「それは、無理なご相談になるかと思います。売れている作家さんでしたら多少印税を上げることもあるかもしれませんが、無名の新人となりますとね・・・」


諦めたくない。

諦めたらそこで終わってしまうと辻は思った。


「50万部以下の売り上げしかなければ8パーセントの印税だけで済み、当初の契約と何ら変わりありません。

まして、50万部売れれば、“未来を実現した小説”としてさらに売り上げを期待できると考えます」
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