バナナの実 【近未来 ハード SF】
第8章 意外な出会い
■ 第8章 意外な出会い ■
「亮さんがガンジャ吸う時、自分から吸わないでまず他人に勧めるでしょ。それって、作法なの?」
「作法なのかどかは知らないけど、みんなそうするね」
「へぇー、そういうのって面白いねえ」
辻は、カラテ練習仲間に別れを告げ、亮と一緒に中国からカンボジアに戻ると、プノンペンでも行動を共にしていた彼から、夕方、亮の宿でガンジャのいろはを学んていた。
「他には、ないの?」
「うーん、草、持っている人が初めに勧めるじゃん。もらう人は“いただきます!”とか、“ごちになります!”とか言うね」
「へぇー、食事をおごってもらうみたいだね。そう言えば、亮さん、ガンジャのこといつも“草”って呼びますよねぇ」
「だって、本当に草だもん」
「まぁ、そうですけど」と口をすぼめると、不思議と内から亮に対する親近感からくる嬉しさが湧いてくる。
遠い祖国を離れていると、お互いに他人と繋がっていると感じられるそんな感情がとても心地よかった。
ガンジャ体験五回目頃の辻は、よくどこかへトリップしたものだった。
軽くキマリだし目を閉じると、そこは戦国時代だった。
鎧兜(よろいかぶと)に身を包んだ武将が、潅木(かんぼく)の林が続く細道を歩いている隊列を上空から眺める自分がいる。
そして、四度瞬(まばた)きをすると、客観的にその全容を眺めている自分と重なるように関ヶ原の合戦のような光景が舞い込んだ。
それら二色の絵の具は、画用紙に落とした時とは異に、半透明になりお互いの色が交じり合うことはなかった。
目を開けると、四方板張り8畳の馬小屋のような所にベッドと蚊帳があるだけの亮の部屋だった。
天井からは、カサが壊れクモの巣が絡みついた裸の蛍光灯がベッドの二人を照らし、窓に張られてた黒く汚れかかった網戸からは、夏の虫の合唱が耳をつつく様に聞こえている。