バナナの実 【近未来 ハード SF】
「亮さん。今、戦国時代に行ってきたよー」
「行っちゃったー。辻ちゃん、すごい所に行っちゃったねぇ」
ガンジャは、人の感情まで増幅させるのか、絶妙な返事に思う辻は、おかしくてたまらなかった。
キングサイズのベッドに八の字に横たわる二人、大声で笑う辻につられるよう、亮もアッハッハッハと笑い出す。
今の二人にとっては、何もかもが愉快に感じられていた。
もし、しらふな人が二人の会話を聞いたとしても、せいぜい苦笑いするくらいだろう。
何がそんなに面白いのか?
そこに大した理由などなかった。
『気の合う仲間と一緒にいるだけでハッピーだった』と表現すれば、それは見かけだけで彼らの内面を正しく映していないだろう。
普段、気の合う仲間と一緒にいても、連帯感からくる嬉しさや心地よさはあろうが、“意識した”ハッピーはまず感じない。
ところが、大病や事故で入院する羽目になり、気の合う仲間が見舞いに来たら、そこに意識された幸せを感じる経験は、概(がい)して共感できるに違いない。
今の辻と亮は、そんなハッピーを無意識に感じていたのだった。
もしかしたら、無意識のうちに意識することができるようになるのが、ガンジャの力なのかもしれない・・・。
不思議なことに、翌朝、ガンジャの酔いから覚め冷静に昨夜の爆笑した会話の理由を堀探しても、ほとんどの場合、そこに笑いのツボはおろかカケラさえ見つけることはできなかった。
ガンジャでキマっていると、無茶苦茶に面白い。だから辻は、大麻にハマっていった。
笑いが止まらず、よく笑っていたのを覚えている。
「亮さん、このベッドが世界で一番気持ちわー。こんな寝心地のいいベッドが世の中にあるんだね。ここ一泊20万円はするでしょ?」
「フハッハッハッハ! 5ドルだよ」
「マジッすっか! このベッドなら20万出す価値あるでしょう」
「あるねぇ」