バナナの実 【近未来 ハード SF】
第 9 章 爆笑問題
■ 第9章 爆笑問題 ■
出版社を後にした辻の足取りはゾウガメのように重く、動物園から先のよく見通せない灼熱の草原に放り出された気分だった。
倦怠感(けんたいかん)が泥のようにこびり付くが、不思議と失望はしていない。
初版の出版費用さえ負担すれば、出版できるのに出版できない。
出版しなければ、未来実現は無いのに出版できない。
そんな分かりきった矛盾(むじゅん)を甲羅(こうら)に縛りつけ、彼は、久しぶりに旧バイト先の店長を訪れた。
「おう、久しぶり! 小説の方は、どうなったの?」
「ええ、出版できると言われたんですが、契約が折り合わず断りました」
「そうなんだあ、残念だったね」
店長と学生アルバイトしんちゃんの空騒ぎに、今の自分と同じくらいの空回りを感じ始めると、取り忘れていたケーキのように店長が問題を差し出した。
店長は、たまに、なぞなぞやクイズをスタッフに出したり、受けたりすることを楽しみとしていた。
辻は、今回もどこからか拾ってきた、娯楽番組を映す壊れかけテレビの仲間だろうと思った。
彼は、NHK番組”爆笑問題のニポッンの教養”の中で行われた実験です、と前置きする。