バナナの実 【近未来 ハード SF】
第2章 トリップ
■ 第2章 トリップ ■
「初めまして、辻雄也と言います」
「辻ちゃんね」
「俺はやす。みんなには、やすさん、とか呼ばれてる」
「では、やすさんで」
プノンペンの昼下がり、強い日差しが頭を串刺しにする時期、これが、やすとの出逢いだった。
同じ宿で知り合った中年の松山と行動を共にしている時、彼からアメリカで会社を経営しているというやすの紹介を受ける。
松山と彼は、以前から知り合いだったらしい。
やすが行きつけのコーヒー屋に寄ってから、ソルヤデパートに涼みに行くというので、三人は行動を共にする。
やすの外見は、ちょっと危ない怖いおじさんに思えた。
「俺の第一印象、どんな感じだった? やっぱり怖そうだった?」
見かけを気にしているのか、歩きながら辻に尋ねる。
「ええ、ちょっと。でもすぐに笑顔が見えたので、安心しました」
辻は、正直に答える。
「あっそう」
彼は、まんざらでもない微笑を浮かべた。