バナナの実 【近未来 ハード SF】

食事を終えホテルロータリー前で車を降りると、辻は「写真撮ろうよ!」とニアンを誘う。


彼女は、恥ずかしいのか嫌がったが、半ば強引に「いいから、いいから」とカジノホテル外観を背景に、広角ピンショットを数枚撮る。


ホテルの輪郭(りんかく)を幻想的に浮き立たせる淡い紫のネオンは、とても煌(きら)びやかだ。


現地の人もそんなホテルを背景に、写真を撮っている人が何人もいる。


ロータリーの周りには、ライトアップされた噴水や電飾された南国の木々が並び、童話に出てくるおとぎの国の入り口のように見えた。


この辺りは、地元っ子の定番散歩コースになっているようで、昼間の暑さとは打って変わって涼風の中、とても多くの人々が思い思いに散歩している。


特に週末にもなると、夏祭りのように夜店も人も増え、さらに賑(にぎ)わいを増す。


彼女を野外コンサートの劇場へ誘った辻だったが、「いやだ」と一蹴(いっしゅう)され、あえなく部屋に戻ることに。


一つ毛布の下、ニアンは、映画がつまらないのか、疲れたか、辻が気がつくと息をしているのかと心配になるくらい静かに寝入っていた。


彼女のあどけない寝顔に、今がきっと一番幸せな時間を過ごしているんだろうなぁと実感する。


映画を見終えると、ニアンと同じ毛布に包まり暗闇に意識を委(ゆだ)ねる。


だが、夜行性動物の性(さが)か、緊張しているのか、なかなか寝付けない彼は、しばらくして、寝酒代わりにガンジャを吸うことにした。


寝室の明かりを消したままシャワー室の扉を開け、そことドアの小さい入り口灯をつけ、テレビの電源を入れ消音にする。


すると多少薄暗いが、物は見ることができた。
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