バナナの実 【近未来 ハード SF】

8分ほどして、また気付く。


チャンネル変えている途中だったっけ・・・。


辻は、あれに似ていると思った。

ガンジャをキメて、宿から歩いてナイトクラブへ向かう時のことだ。


宿を出て100メートルくらい歩くと、「あれ、ここはどこだ? どこへ行こうとしてたんだっけ? うーん、ここは、・・・どこ?」といった感じで、今どこを歩いていて、どこへ行こうとしていたのかが急に分からなくなることがよくあった。


突然、第三者の意図で知らない街の繁華街に、時空を超えて放り投げだされた気分だった。


そして、しばらくの間、あれー? ここはどこだ? でも、大丈夫、もうすぐ思い出すから。えっと・・・、と自問すること六十秒。


「あっそうだ! クラブに行こうとしていたんだ。ここは宿から少し出たシアヌーク通りだ」と、手槌を打って現状を思い出す。


その自分を取り戻した瞬間の、滑稽(こっけい)さといったらなかったのだ。


まさに、その時の感覚と同じだと思った。


そんなことを思い出しているうち、また記憶がどこかへトリップしていた。


そうそう、チャンネル変える途中だったんだ・・・。


辻は、リモコンを持ち直しチャンネルを進める。

「あっ、そうだ!」

寝酒代わりにガンジャを吸ったんだった。

後片付けを済ませ毛布の中で時間を確認すると、すでに午前4時を回っていた。





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