バナナの実 【近未来 ハード SF】
彼は、バンコクで出逢った佐川という男が言っていた、『何で他人と比べる必要があるの?』という言葉を思い出したようにかみ締めていた。
再び、シナリオの推敲に取りかかった辻は、自分の作品ながら随分酷(ひど)い文章を書いていたものだと思いながら、さらに三ヵ月かけSF小説『バナナの実』を完成させる。
推敲し、構成やシナリオが大きく変わる度に小説タイトルも変化していった。
こうして、小説の構想を書き始めてから一年と半年後にようやく完成した『バナナの実』は、2008年7月21日、ケータイ小説サイト“魔法のiらんど“と自身のブログに掲載された。
辻は、未来において分からないことを分からないものとして、そのまま発表した。
したがって、未来に関する描写は、大幅に削除され最低限に絞られていた。
ブログには、実際に郵送されてきた出版社の講評が画像として公開されたり、読者と広く意見を交わす掲示板が設けられ、辻はもっぱらブログ運営に力を注ぐことにした。
数週間後、彼の小説を読まれた読者から感想やコメントが届くようになる。
(無題) 投稿者: りく
『設定は面白いが、それが文章に生かされてなくもったいない。意外性や勢いだけでは、小説や映画化は成立しないのでは?
文章力が無いだけに、どれだけ条件を整えても出版すら無理でしょう』
(無題) 投稿者: 虫けら
『ストーリーが、安直過ぎけら。ダラダラ話が長いだけで、重要な議論を読者の書き込みに投げ出しているだけけら。
前半読めば、オチも想像通り! 映画化はおろか、出版化など到底無理けら』
(無題) 投稿者: ゼッタイ反対!
『ダサ! ウザ! キモイ! お前は、麻薬擁護者か!』