バナナの実 【近未来 ハード SF】
第12章 化粧されたパソコン
■ 第12章 化粧されたパソコン ■
「おっきろー!」
いやに元気なニアンの声で、辻は起こされた。
ベッド脇、間接照明の下に置かれた腕時計を手に取ると11時。
「はーっ?」
彼は、部屋の明るさに眉をしかめた。
「ニアン、カーテン開けたのか」
かすれた声で、日本語を話していた。
「おきろー!」
愛嬌(あいきょう)ある声が毛布を半分剥(は)がすと、パッシン!という辻の背中を叩く音。
その平打ちには、ちゃんと意味があったようだ。
ニアンが目を覚ますと、隣でうつ伏せになった子供の寝顔が静かに息をしていた。
カーテンの隅から僅(わず)かに洩(も)れる光りを求めて立ち上がると、ふとエアコンの送風口にいくつか掛けられた三角の針金ハンガーに、見慣れた白い靴下を見つける。
それは、紛れも無く自分のものだった。自分の洗濯された靴下が、彼のトランクスとシャツに混じって干されていたのだ。
昨夜、辻は、ニアンの脱ぎ置かれていたローファーが気になっていた。
外のピンクはとうに色褪(いろあ)せ、中敷は更に真っ黒。その横に脱ぎ捨てられていた、黒く汚れた白い靴下。