バナナの実 【近未来 ハード SF】

ようやく説明を理解したようで、毛布下でわざと起き上がれないよう両足を踏ん張っている彼の両手を引っ張っり、起こそうと奮闘するニアン。


お互い綱引きでもしているかのような格好をバカバカらしく思った彼は、四度目で起き上がった。


「しょーうがない、シャワーでも浴びるか」



辻と入れ替わりで、ニアンがシャワー室へ向かう。

ベッドの端に腰かけタイ語訳がする日本のバラエティ番組を見ていると、白いバスタオルを体に巻いた細い膝から先が目に入った。


ドキッ!とした辻は、パリコレの花道を颯爽(さっそう)と歩くモデル並みのセクシーさに、唾(つば)を二度飲む。


彼女は、辻の前を通りテレビ横に置かれたヨレヨレのビニール袋から新しい服を取り、それを持って間接照明横の電話機の前に立つと、彼に背を向けて服を着出した。


体の線に合った白いスキニーなジーパンと、黒いニットの長袖がとても似合っていた。


なぜかニアンは、鏡の前でスキップを刻(きざ)み、小躍(こおど)りしながら携帯電話の画面で何か操作している。


その楽しそうに舞う姿は、万人に幸せを与える妖精のようだった。


友達にでもメールしているのだろうか?



携帯電話をテレビ横の鏡台に置くと、開かれていたノートパソコンの上で化粧を始める。


辻は、化粧自体が好きではなかったが、不思議と彼女のそれは気に入った。


薄化粧で、素顔を生かしたものだったからかもしれない。


スッピンでも十分だったが、メイク顔もまた、別の魅力があった。


二人は、青空が映(うつ)り込むプールの鏡面を横に歩いて、カジノトロピカーナにあるレストランへ。
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