バナナの実 【近未来 ハード SF】
館内は、老若男女(ろうにゃくなんにょ)、多くの客で賑わっていたが、普段とは違い、特に小学生の家族連れが何組も目に付く。
二人は、空いていた最後の席を確保し、ビュッフェ料理に向かう。
辻は、ホワイトソースパスタなど西欧料理中心に選ぶ。
本日の日替わりスープは、パンプキンスープ。
席に座りしばらくすると、お皿に香草をてんこ盛りにしたニアンが戻ってきた。
「ほんと香草好きなんだね。その唐辛子も食べるの?」
彼女は、頬をすぼめ目と眉で、もちろんというような表情を作って見せる。
そして、赤い辛そうな唐辛子を一本、箸(はし)で不器用に摘(つま)むと、辻のホワイトソースに色を添えた。
「オイ、オイ、オイ、何するんだ!」
彼は、大して困っていなかったが、いかにも迷惑そうにその赤を彼女の皿に戻すと、ニアンは「クスクス」と声に出して辻と目を合わせた。
ブランチを終えた二人は、カジノ場へ。
週末に当たる鉄火場(てっかば)は、多くの客人で活気付いていた。
気分よく勝ちを重ねていた辻だったが、突然、連敗が続く。
今日は調子が悪いと諦め、遊び半分でニアンにチップを賭けさせる。
驚いたことに、彼女の勝率は、七連勝するなど圧倒的に良かった。
「すごいね、ニアン!」
彼女の手を握り辻が褒めちぎると、少し得意げな笑みを見せる。
1時間ほどで、4000バーツ(1万3000円)プラスになると手仕舞いに。
彼は、負けを取り戻してくれたお礼にと100ドル手渡す。