バナナの実 【近未来 ハード SF】

辻は、カジノなど程々(ほどほど)にして、ニアンと甘くのんびり過したいと思っていた。


そんな辻の理想とは裏腹に、彼女は、ねむいと言って部屋でよく寝ていた。


毎晩、夜の仕事でよっぽど疲れていたのだろう。


そう思い静かに寝かせると辻は、独りフットネスジムやサウナ、プールに通い、持て余した時間を潰(つぶ)した。




「ニアン、夕食だぞ、起きて!」

すっかり陽も落ちた頃、辻はベッドの端に半身腰掛け、彼女の上腿(じょうたい)を軽く揺する。


「たべたくない~」と、だるそうにして起きようとしない。


また熱でも出したかと、額に手をあてがうものの平熱。ただ、よく咳き込んで苦しそうにする。


「ニアン、少しでもいいから食べに行こう」と優しく声をかけると、渋々ベッドから起き上がった。


ニアンの持ってきた皿を見ると、山盛りの野菜と香草に唐辛子だった。


辻は、食欲があることに細く笑みながらも警戒していた。


彼が箸(はし)で指して何かを言おうとした瞬間、―――― 皿いっぱいの唐辛子が辻の料理の上に落ちる。


間一髪、左にずらされた料理皿の横で、ゴロゴロっと転がった赤や緑の小さい唐辛子が、ニアンの何かを主張している気がしてならなかった。


そんな心情を一片も見せることもなく辻は、「ニ ア ン!」と少し怒った振りを演じる。


辻の口元が緩むのを見逃さなかったニアンは、「あらー! ゴメンナサイ」とわざとらしく共演し、しくじった!と、あどけない表情を一瞬作って見せた。
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