バナナの実 【近未来 ハード SF】
「ハァー ・・・」
彼が深いため息をつくと、ニアンは、「ケタケタ」と陽気に声を上げるのだった。
辻は、よそよそしく居直り、祭事の礼儀作法のように上品で優雅に、落ちて広がってしまったニアンの気持ちを寄せ集めるかのように、それら一つ一つを箸(はし)で皿に戻す。
ニアンとはあまり言葉が通じず深い意思の疎通ができなかったが、そんな風に冗談でも、コミュニケーションを取ってくれることが何より嬉しかった。
部屋に戻った辻が、今晩、楽しみにしていた映画にチャンネルを合わせると、ニアンがチャンネルを変えてしまう。
慌ててリモコンを取り戻そうとするが、それがハエのようにブンブン宙を舞うだけだった。
「見たい番組があるから、それ返して」と、掌(てのひら)を胸の前で合わせ真剣にお願いする。
ニアンの”許してやるかぁ”というような唇を突す仕草に安心すると、出し抜けに「コン!」と鈍(にぶ)いイイ音がした。
辻には何が起こったのか、一瞬、分からなかった。が、すぐに走った激痛と共に、リモコンの側面が直撃したことに気づかられる。
「痛ってー!!」
今回ばかりは、冗談抜きで血が出たと思った辻だった。
かすり傷でちょっとケガしたインド人も顔負けのリアクションで、両手で額を押さえながらのた打ち回る。
すると、さじ加減の間違を気の毒そうに態度で示しながらも、でも人事のような笑いを浮かべ、「ゴメン、ゴメン」と言い辻のおでこをさする。
「ニアン、本当に痛かったよ!」
彼は、嬉しさを隠すように、少しキツイ言い方で怒っているように振舞って見せた。